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2026-06-04構造・視座系

空港の液体制限は、テロを防いでいるのか

エネルギー政策再エネ電力視座

空港のセキュリティレーンで、100mlを超える飲み物を捨てさせられたことがある人は多いだろう。

「液体爆弾のリスクがあるから」という説明は聞いたことがある。でも、実際に液体100mlの制限がテロを何件防いだかを知っている人はほとんどいない。

アメリカのセキュリティ研究者ブルース・シュナイアーは、これを「セキュリティ劇場(Security Theater)」と呼んだ。実際の安全性を上げない対策が、安全に見えるための演技として機能している状態だ。

TSA(米運輸保安庁)が実施した内部テストでは、武器や爆発物の持ち込み試みのうち、70〜95%が検査をすり抜けたという報告がある。液体制限を設けながら、それよりはるかに危険な物を見逃している。

ではなぜ、液体制限は続いているのか。

「やっている」を見せることの価値

シュナイアーの議論は、「セキュリティとして無意味だから廃止すべき」という主張ではない。

安心感は、安全と別に機能している。乗客が「ここは守られている」と感じることで、飛行機に乗り続ける。旅行産業が維持される。社会が機能する。

「対策をしている」ことを見せることが、それ自体で社会的な意味を持っている。安全性の向上とは別の次元で、政治的・心理的に機能している。

これは批判ではなく、観察だ。社会は「本当に効果があるか」と「やっていると見えるか」の2つを同時に要求する。

エネルギー政策の「再エネ20%達成」

同じ構造が、エネルギー政策にも見える。

「再生可能エネルギー導入率〇〇%達成」というニュースが出たとき、CO2排出量がどれだけ減ったかが同時に報告されることは少ない。

再エネ比率の数字は、「電力供給量に占める再エネ発電の割合」だ。でも電力系統では、再エネの出力が不安定なため、バックアップとして火力発電が待機している。再エネが増えても、火力の「常時稼働」は変わらない場合がある。

「再エネ30%」という数字が、CO2削減に線形に対応していない構造がある。

これも批判ではない。「数字を達成する」ことと「問題を解決する」ことが、完全には一致しない場合があるという観察だ。

数字の外に何があるか

節電ポイント還元も、似た構造を持つことがある。

「節電した」「ポイントをもらった」——この一連の行動が、電力需給のひっ迫改善にどれだけ寄与したかは、個人レベルではほぼ測定できない。でも「節電に参加した」という体験は確実に存在する。

行動の効果と、行動したという感覚は別物だ。

これは「節電無意味だからやらなくていい」という話ではない。「効果の計測が難しいこと」と「やらなくていいこと」は違う。

ただ、「やっている」という安心感と「実際に何かが変わっているか」の確認は、分けて考える習慣があると面白い。

セキュリティ劇場が教えてくれること

シュナイアーの概念が鋭いのは、「劇場」が悪いとは言っていない点だ。

社会は、安全と安心感の両方を必要としている。完全に効果がない対策でも、集団的な安心感を生むことで社会の安定に貢献するなら、それには意味がある。

問題は、「劇場」と「本物の安全対策」の区別がつかなくなることだ。本物の対策に使うべき予算とリソースが、安心感のための劇場に流れ込むとき、リスクは上がる。

電力系統の安定には、見えにくい地味なインフラ投資が必要だ。それより「再エネ達成」という数字の方が、見えやすく、報告しやすく、評価されやすい。

数字の外にあるものを、時々確認する習慣が、消費者としての電力選択を少し変えるかもしれない。


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