2026-04-06 ・ エネルギーの未来
停電が「ビジネス」になる国と、停電が「事故」になる国
ベトナムの停電は「いつ来るかわからない」じゃなくて、「今日も来るんだろうな」という感覚に近い。
ハノイやホーチミンに行ったことがある人なら、あの空気感を覚えているはずだ。昼食を食べようとしたら照明が落ちて、店員が慣れた手つきでロウソクを出してきた。コンビニのレジが止まる。ホテルの廊下が真っ暗になる。1ヶ月いれば2〜3回は起きる。今もそれが日常だ。
驚いたのは、現地の人がほとんど気にしていないことだった。
停電が多い国では「停電ビジネス」が育つ
停電を「事故」として扱う社会と、「背景ノイズ」として受け入れる社会では、市場が変わる。
ベトナムやインドネシア、フィリピン、バングラデシュといった国々では、家庭用UPS(無停電電源装置)が普通に家電量販店に並んでいる。蓄電池ではなく、停電が来た瞬間に自動で電力を切り替えるための装置だ。冷蔵庫や医療機器、PCを「落とさない」ために必要なもの。日本では一般家庭にほぼ存在しない製品が、東南アジアでは生活必需品になっている。
中小企業はさらに進んでいる。自家発電機(ディーゼル発電機)を所有しているオフィスや工場は珍しくない。停電が来ても業務が続けられるように、二重の電源を持つことがリスク管理の標準だ。
これは「遅れている」のではなく、環境に合理的に適応した姿だ。停電が多い社会では、それに対応する産業が育つ。UPSメーカー、蓄電池販売業者、発電機のリース会社――停電が「需要」を生み出している。
日本にいると、こういう市場は遠い話に聞こえる。
でも、本当にそうだろうか。
日本は電力を「輸出」している側だった
あまり知られていない事実がある。日本の電力インフラ技術は、東南アジアや中東、アフリカへと輸出されている。JICAや商社を通じて、配電網の整備・変電所の建設・電力会社の運営ノウハウを提供してきた実績がある。
ベトナムの電力インフラにも、日本のODAと技術支援が入っている。「停電が多い国」を助けてきたのが、ほかでもない日本だった。
その背景には、日本の電力品質への自信がある。日本の停電時間は世界トップクラスで短い。SAIDI(年間停電時間)という指標で見ると、日本は年間数分〜十数分。アメリカは数時間、インドは数十時間、バングラデシュは年間100時間を超える地域もある。
この差を生み出しているのは、電力会社の高い技術力と、設備への継続的な投資だ。台風・地震・猛暑に耐えてきた日本の送配電インフラは、世界基準で見ると異常なほど頑丈だ。
だから「輸出」できた。技術を売れた。
ただし、その前提が少しずつ変わり始めている。
「停電しない国」の前提が崩れる兆候
2024年の能登半島地震では、石川県の広いエリアで長期間の停電が続いた。復旧に1週間以上かかった地域もあった。
これは特別なケースだろうか。
実はそうとも言い切れない。日本の送配電インフラは高度経済成長期に集中的に整備されたものが多く、老朽化が進んでいる。電力自由化(2016年〜)以降、大手電力各社のインフラ投資は慎重になっている。
さらに、再エネの急拡大が電力の安定供給に新たな課題をもたらしている。太陽光や風力は天候に左右されるため、出力が不安定だ。九州電力管内では再エネが増えすぎて「出力制御」(強制的に発電を止める)が頻発している一方、需給バランスが崩れると供給不足になるリスクもある。
「電気は蛇口をひねれば出る」という感覚が、いつまでも続く保証はない。
蓄電池が「保険」として機能する構造が変わった
能登地震の後、蓄電池の問い合わせが急増した。これは感情的な反応ではなく、合理的な計算だ。
以前は「蓄電池は元が取れるか」という投資対効果の文脈で語られることが多かった。買うと高い、回収できるのか、という話。でも停電を経験した人、あるいは身近に経験した人がいる人は、別の計算をする。
「何日間、冷蔵庫が使えなくなるか」 「夜、照明がない状態でどう過ごすか」 「医療機器が必要な家族がいたら」
こうなると蓄電池は「投資」ではなく「保険」になる。保険は元が取れるかどうかで語るものではない。「蓄電池をどの目線で買うか」を先に決めるという話は、この「何のために買うか」の整理に使える。
東南アジアで家庭用UPSが当たり前に売れているのと、構造は同じだ。停電リスクを実感している人は、備える。日本でもその実感が、じわじわと広がりつつある。
太陽光発電との組み合わせはさらに合理的だ。停電中でも昼間に発電し、蓄電池に貯めた電力を夜間に使える。送電網が使えない状態でも、自家発電で数日をしのげる。「電力の自給」という概念が、災害大国・日本では特に意味を持つ。ただし太陽光導入には営業シミュレーションに出てこない隠れコストがあるので、事前に把握しておきたい。
停電ビジネスが「普通」になる前に
ベトナムで停電に慣れた人々が、UPSや発電機を「普通の家電」として持っていたように、日本でも蓄電池が「普通の選択肢」になる日は来るかもしれない。
インフラの老朽化、再エネの不安定さ、気候変動による災害頻度の増加――どれも一夜にして変わるものではないが、積み上がっていく。
今すぐ停電が増えるとは言わない。でも「停電は事故」という前提が続くかどうかは、実は自明ではない。
日本が電力インフラを輸出してきた誇りは本物だ。ただその誇りを維持するには、投資と技術の継続が必要で、それは誰かが払い続けなければいけない。電気代の議論は、結局そこに戻ってくる。
蓄電池や太陽光への関心は、「コスト削減」だけじゃない。「インフラへの信頼度」が変わるほど、備える合理性が高まる。ベトナムの停電がビジネスを生んだように、日本にも同じメカニズムが静かに動き始めているかもしれない。
まとめ
- 停電が多い国では、UPS・蓄電池・自家発電機が「普通の家電」として売れる市場が育つ
- 日本の電力安定性は世界トップクラスで、その技術は東南アジアへの輸出実績がある
- 一方で、インフラの老朽化・再エネ拡大・災害頻度増加により、日本でも停電リスクは上昇傾向にある
- 停電リスクを実感した人は、蓄電池を「投資」ではなく「保険」として選ぶ――東南アジアと同じ構造だ
- 太陽光+蓄電池による「電力の自給」は、災害大国・日本では特に合理性が高い選択肢になりつつある
自宅の電力を「電力会社任せ」にするか、一部でも自前で持つか。その判断の重さが変わってきている。太陽光パネルや蓄電池の導入を検討するなら、複数の施工会社から見積もりを取り比較することから始めてみてください。