2026-05-01 ・ 太陽光・蓄電池
20年ローンを組んで買った家が、15年で建て替えになることがある
結婚式場の見積もりは、最初に出てきた金額では終わらない。
会場費・料理・衣装・写真・引出物。最初の見積もりは「基本プラン」で、打ち合わせを重ねるたびに項目が増え、金額が膨らんでいく。最終的には当初の1.5倍から2倍になることも珍しくない。
これは結婚式場が悪質なのではない(そういうケースもあるが)。「入口の数字」で意思決定させ、「出口の数字」は後から出す、という構造そのものが問題だ。
太陽光パネルの「10年で元が取れます」も、同じ構造を持っている。
「入口の計算」に含まれないもの
太陽光パネルの営業シミュレーションには、たいてい以下が含まれている。
- パネル設置費用
- 年間の発電量と節約金額
- FIT(固定価格買取制度)による売電収入
- 回収年数
きれいな数字が並ぶ。10年で回収、20年で2倍の利益。
しかし含まれていないものがある。
パワコン(パワーコンディショナー)の交換費用。 パワコンはパネルの直流電力を家庭用の交流に変換する装置で、寿命は15〜20年。交換費用は20〜30万円(税込)。パネル自体は25〜30年もつが、途中でパワコンは交換が必要になる。
パネルの経年劣化。 発電効率は年0.5〜1%ずつ下がる。20年後の発電量は新品時の80〜90%。シミュレーションが初年度の発電量を20年間固定で計算していたら、回収は遅れる。
撤去・廃棄費用。 2040年代に数百万台規模のパネルが廃棄期を迎える。撤去工事の足場代、パネルの処分費用、屋根の補修。この費用は導入時の見積もりにはほぼ載っていない。
フランチャイズの「入口」と「出口」
この構造は太陽光だけのものではない。
コンビニのフランチャイズ契約を考えてみる。本部が提示する収益シミュレーションには、売上予測・粗利率・ロイヤリティが載っている。「年間これだけ残ります」という数字だ。
載っていないのは、撤退コストだ。契約期間中の解約違約金、店舗の原状回復費用、在庫の処分。「やめるのにかかるお金」は、始める前の説明では目立たない。
不動産も同じだ。マイホームの購入時には「35年ローンで月々いくら」という入口の数字で判断するが、売却時の仲介手数料、ローンの繰上返済手数料、リフォーム費用は計算に入っていないことが多い。
入口で意思決定し、出口で驚く。
なぜ出口コストは見えにくいのか
理由は3つある。
1. 時間的に遠い。 太陽光パネルの廃棄は20〜30年後。フランチャイズの撤退は「将来のいつか」。今の意思決定に影響する実感がない。行動経済学の「双曲割引」――将来の損失を現在の意思決定に適切に反映できない傾向――がここに効いている。
2. 売る側に出す動機がない。 出口コストを詳細に提示すると、入口のハードルが上がる。営業の目的は契約を取ることであり、20年後の廃棄費用を丁寧に説明する動機は薄い。
3. 比較が難しい。 入口コストは各社横並びで比較できるが、出口コストは「起きるかもしれない将来のこと」なので比較しにくい。条件が揃わない数字を並べても判断できない。
出口コストの入った計算をする
太陽光パネルに限って言えば、営業シミュレーションに含まれない隠れコストで詳しく試算している。パワコン交換・経年劣化・メンテナンスを含めると、「10年回収」が「15〜16年回収」に変わる。
それでもパネル寿命の25〜30年と比較すれば、残りの10〜15年分は利益になる。出口コストを入れた上で判断するなら、条件次第で合理的な投資だ。
問題は「出口コストを知らなかった」場合だ。知った上で受け入れるのと、知らずに驚くのは、同じ金額でも体験がまったく違う。
「やめるコスト」を先に見る
投資判断をするとき、入口の数字は必ず目に入る。提示される側だから当然だ。
出口の数字は、自分で聞かないと出てこない。「この投資をやめるとき、いくらかかりますか」という問いを、始める前に投げるかどうか。
結婚式場に「最終的な総額はいくらになりますか」と最初に聞く人は少ない。でも聞いた人は、後から驚かない。
蓄電池をどの目線で買うかを先に決めるのと同じように、太陽光パネルも「入口の計算」ではなく「出口の計算」から始めると、判断の質が変わる。