Wattly
コラム一覧へ

2026-06-18社会・構造系

「指定席が増えた」とき、自由席の意味が変わった

電力自由化電力会社選び乗り換え行動経済学

「のぞみ」の全車指定席化が話題になったとき、議論の中心は「自由席がなくなって不便」だった。

でも面白いのは、自由席がなくなることで「指定席の価値」が変わった点だ。

自由席があった頃、指定席は「確実に座れる安心感」を売っていた。自由席との違いは「待たなくていい」「好きな席を選べる」だった。

全車指定席になると、「確実に座れる」は指定席だけの価値ではなくなる。全員が指定席になるからだ。その代わり「座る権利そのもの」が指定席になる。

選択肢が変わると、既存の選択肢の意味が変質する。

「選べるようになった」ことが作った変化

電力自由化の前、「電力会社を選ぶ」という概念は存在しなかった。地域の電力会社から電気を買うことが、唯一の選択肢だった。

2016年の全面自由化後、「選ぶ」という行為が生まれた。

このとき、以前と同じように大手電力を使い続けることの意味が変わった。自由化前は「選択のない状態」だったが、自由化後は「選ばないという選択をした状態」になった。

外から見た状態は同じだ。大手電力と契約している。でも自由化前の「デフォルト」と、自由化後の「選択した結果」は、まったく異なる。

「のぞみ」に乗るとき、自由席も選べる状態で「指定席を選んだ」のと、全車指定席しかない状態で「指定席に乗った」のでは、体験の構造が違う。

7割が「選ばない」を選んでいる

電力自由化から8年以上が経った今も、大手電力の規制料金プランを使い続けている家庭は約7割と言われている。

これをどう読むか。

「消費者は変化を嫌う」「情報が届いていない」という説明は一部正しい。でもそれだけではない。

行動経済学の研究では、「選ばない」こと自体が合理的な判断として機能することが示されている。選択肢を評価するためのコスト(情報収集、比較、判断)が、乗り換えによって得られる利益を上回ると判断したとき、人は「現状維持」を選ぶ。

これは怠慢ではなく、認知コストへの合理的な対処だ。

乗り換えた場合の月次節約額が500円なら、1年で6,000円。それを得るためにかかる時間・労力・判断のコストが、人によっては6,000円以上の価値に感じられる。

「選ばない」の中身は一律ではない

7割の「選ばない」は、全員が同じ理由で選んでいない。

「情報が届いていない」グループには、比較情報を届ければ動く可能性がある。「面倒で後回し」グループには、乗り換え手続きを簡単にする工夫で動く。「検討したが変えなかった」グループは、評価した結果として現状維持を選んでいる。

最後のグループに「なぜ変えないのか」と問いかけるのは的外れだ。彼らはすでに判断している。

自由化後に「選ばない」という選択がどういう意味を持つかは、そのグループによって全然違う。

「選ばない」は判断だ

自由席がなくなったとき、「選ばない」という選択肢も消えた。全員が「指定席を選ぶ」必要が生まれた。

電力は逆で、「選べる」状態が生まれたことで「選ばない」という選択が意味を持ち始めた。

自由化前は「選ばなかった」のではなく「選べなかった」。自由化後は「選ばない」という判断ができる。

その判断が合理的かどうかは、「今の電力会社でいくら払っているか」「乗り換えで何が変わるか」を一度確認した上でしか、評価できない。

確認した結果「変えなくていい」でも、「変えた方が良い」でも、それは情報に基づいた判断だ。確認せずに「なんとなく変えていない」とは、違う。


Wattlyは、電力の仕組みと乗り換えの判断材料を伝えるメディアです。電力会社の比較・乗り換えを検討している方はこちらから。

コメント

読み込み中...