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2026-04-22法人向け

工場の電気代は、「使った量」より「一瞬の最大値」で決まる

デマンド高圧電力法人電気代削減

マラソンの世界に「スタートダッシュ問題」という概念がある。

最初の1kmを速く走りすぎると、後半にガス欠を起こして全体タイムが落ちる。「平均ペース」を最適化したいなら、最初の「一瞬の走りすぎ」を制御することが鍵になる。ペース全体の問題ではなく、最初の数分の問題だ。

電力の基本料金の計算にも、似た論理がある。ただしマラソンと違うのは、工場側が「ペースの上振れ」に気づいていないことが多い、という点だ。


デマンドとは何か

高圧電力(50kW以上)を契約している工場や大型施設では、基本料金の計算に「デマンド(最大需要電力)」が使われる。

デマンドとは、30分間の平均電力の最大値だ。1ヶ月の中で最も電力消費が集中した30分間の数値が、その月の基本料金を決める。

たとえば月間の使用量が同じでも、ある30分に電力が突出して集中していれば、デマンド値は高くなる。逆に消費が平準化されていれば、デマンドは低く抑えられる。

月の中の0.01%にも満たない「一瞬」が、1ヶ月分の固定費を決める。


「節電したのに基本料金が変わらない」の正体

電力使用量を削減したのに、電気代の基本料金が変わらない――という経験をした工場管理者は少なくない。

それはデマンドが下がっていないからだ。

消費量を10%削減しても、デマンド値を作る「一瞬のピーク」が変わっていなければ基本料金は変わらない。全体の総量を減らすのではなく、ピーク30分間の集中を崩すことが、基本料金削減のポイントになる。

大型機器の同時稼働、複数設備の一斉起動、始業直後の全設備立ち上げ――これらがデマンドを上げる典型的なパターンだ。


デマンドを1kW下げる意味

デマンドを1kW下げると、年間でどれくらい変わるか。

電力会社によって異なるが、高圧電力の基本料金は1kWあたり月1,000〜1,500円(税込)程度が目安だ。デマンドを10kW下げれば、月1万〜1.5万円(税込)、年間12万〜18万円(税込)の基本料金削減になる。

設備投資なしに、電力消費の「タイミング」を管理するだけで実現できるケースがある。

一方で、デマンドを下げるために生産ラインの稼働タイミングを変えることにはコストもある。製造現場の制約は様々だ。「デマンド管理が合理的かどうか」は、その工場の実態によって変わる。ただ、仕組みを知らずに払い続けているケースは確かに存在する。


「最大値」が支配する構造

デマンドの仕組みは、電力に限った話ではない。

交通渋滞も「平均の交通量」ではなく「ピーク時間の集中」が問題だ。道路容量は最大需要に合わせて設計される。通信回線の帯域も、平均使用量ではなくピーク時の需要に合わせて確保される。

「平均」ではなく「最大値」が設計を支配するインフラは多い。電力の基本料金もその構造の中にある。

電気を使わないことが売り物になるディマンドレスポンスの話と合わせて読むと、法人の電力コスト管理が「消費量の削減」だけでは語れない理由が見えてくる。「いつ使うか」の管理が、「どれだけ使うか」と同等以上に重要になる場面がある。

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