2026-05-10 ・ 法人向け
中小企業が大企業より高い電気代を払う理由は、公平性とは無関係だ
同じ高速道路を走っていても、軽自動車と大型トラックでは料金が違う。
これは「不公平」とは言われない。大型トラックの方が道路に与える負荷が大きいから、という理由がある。逆に、軽自動車の方が料金が高かったら?それは「おかしい」と感じるだろう。
電力の世界では、それに近いことが起きている。
50kWの壁
電力契約には「低圧」と「高圧」の区分がある。
境界線は50kW。契約電力が50kW未満なら低圧、50kW以上なら高圧。一般的な家庭やごく小規模な事業所は低圧、工場やビル・大型店舗は高圧になる。
この区分によって、電気の単価が大きく変わる。
低圧の従量料金は1kWhあたり30〜40円程度。高圧は15〜25円程度。使っている電気は同じだが、契約の区分が違うだけで単価が1.5〜2倍違う。
中小企業の多くは、この境界線の存在を知らない。
なぜ単価が違うのか
高圧契約者は、受電設備(キュービクル)を自前で設置・管理する。変電・配電の一部を自分で担うことで、電力会社側のコストが下がる。その分、単価が安くなる。
低圧契約者は、電力会社が変電・配電まで面倒を見る。手間がかかる分、単価が高い。
つまり「高い電気を使わされている」のではなく、「電力供給の手間の分を上乗せされている」という構造だ。高速道路の料金体系と同じで、インフラの負荷に応じた価格設計ではある。
ただし、この構造を知っているかどうかで、判断が変わる。
契約変更で単価が下がるケース
50kWの境界付近にいる事業所が、最もこの壁の影響を受ける。
たとえば契約電力45kWの小規模工場。設備の増設や空調の追加で50kWを超えると、高圧契約に切り替えることになる。切り替えにはキュービクルの設置(数百万円(税込))が必要だが、電気の単価が下がることで、設備投資を数年で回収できるケースがある。
逆のパターンもある。すでに55kW程度で高圧契約を結んでいるが、設備の見直しで50kW未満に抑えられれば、キュービクルの維持費がなくなり、トータルで安くなることもある。
どちらが得かは事業所の実態による。ただ「50kWの壁がある」ことを知らなければ、比較すらできない。
「知らないコスト」と「知らない節約」
電力に限らず、事業のランニングコストには「知らなければ比較しようがない」構造が多い。
銀行の融資条件。クレジットカード決済の手数料率。電話回線の契約プラン。どれも「今の契約が最適かどうか」を判断するには、代替案の存在を知っている必要がある。
中小企業の経営者は、電気の契約形態を選んだ記憶がないことが多い。物件を借りたときに既存の契約を引き継いだか、開業時に電力会社が設定したものをそのまま使っている。「選んだ」のではなく「そうなっていた」だけだ。
不公平な価格体系は、誰かの悪意で維持されているわけではない。「構造を知らない」ことによって維持されている。
まず確認すべきこと
自社の電力契約が低圧か高圧かは、電気料金の請求書に記載されている。契約電力(kW)と、kWhあたりの単価を確認するだけで、50kWの壁のどちら側にいるかが分かる。
隣のテナントや同業他社と電気代を比べて「うちは高い」と感じたことがあるなら、契約区分の違いを疑ってみる価値はある。
デマンド(最大需要電力)の仕組みと合わせて読むと、法人の電気代が「使用量」だけでは決まらない構造がより見えてくる。