2026-03-17 ・ 電力の基礎知識
同じ国なのに電気代が年5万円違う異常
関西に住む友人に電気代を聞いて、驚いたことはありますか。
同じくらいの広さ。同じくらいの家族構成。エアコンの使い方も似たようなもの。なのに月額が4,000円以上違う。年間5万円。10年で50万円。
「地域差があるのは知ってるけど、そこまで違うの?」——具体的な数字で見ると、想像以上の差があります。
数字で見る格差
大手電力10社の従量電灯プラン(40A・月300kWh、基本料金+電力量料金の合計)を並べると、格差がはっきり出ます。
| 電力会社 | 月額目安(税込) |
|---|---|
| 関西電力 | 約7,200円 |
| 九州電力 | 約7,800円 |
| 中部電力 | 約8,400円 |
| ── | ── |
| 東京電力 | 約11,400円 |
| 東北電力 | 約11,600円 |
| 北海道電力 | 約13,400円 |
※燃料費調整額・再エネ賦課金を含まない(出典: 各社公式サイト 2024年時点の規制料金ベース)
関西と東京で月4,200円差。年間で約5万円。
電気料金がどう構成されているかを見ると、ここに燃料費調整額が加わります。火力依存度の高いエリアほど燃料費調整額が高くなるので、実際の差はさらに広がる。
北海道に至っては、関西との差が月6,000円以上。年間7万円超。同じ国に住んでいる人同士の話です。
答えは「原発が動いているかどうか」
この格差の最大の原因は、電源構成の違いです。
関西電力は福井県の原発7基——高浜1〜4号機、大飯3・4号機、美浜3号機——が全て稼働しています。全基稼働は震災前の2008〜2009年以来。大手電力としては異例の状態です。
原発は初期投資と安全対策費が巨額ですが、一度稼働すると燃料費が火力に比べて格段に安い。関西電力は2017年、原発再稼働の効果で約877億円の燃料費を削減し、その分を原資に電気料金を値下げしました(出典: 資源エネルギー庁「なぜ関西電力は電気料金を値下げできたのか?」)。震災後、大手電力が値下げに踏み切ったのはこれが初めてのことでした。
九州電力も同じ構造。川内1・2号機、玄海3・4号機の計4基が稼働中で、全国2位の安さを維持しています。
一方の東京電力。
震災後14年間、原発の稼働はゼロでした。2026年1月にようやく柏崎刈羽6号機が再稼働しましたが、発電機の警報トラブルで営業運転は4月以降にずれ込んでいます(出典: 日本経済新聞 2026年3月19日)。
関西は7基。東京は実質まだ1基。この差が、月4,000円の差を生んでいます。
消費者は電源構成を選んでいない
ここで一つ、引っかかる問いがあります。
2016年の電力自由化で、消費者は電力会社を選べるようになりました。料金プランを比較して、安いところに乗り換えられる。これが「自由化」の趣旨です。
でも、電源構成を選ぶことはできません。
関西電力エリアの消費者は、原発7基が動いている恩恵を自動的に受けている。東京電力エリアの消費者は、原発が動いていないコストを自動的に負担している。どちらも、自分で選んだわけではない。
住む場所で電気代が決まる。引っ越せば安くなる。これは「電力会社を自由に選べる」とは、少し違う話です。
電力自由化は「小売」の自由化であって、「電源」の自由化ではない。どんなに比較サイトで最安の新電力を選んでも、そのエリアの電源構成が火力偏重なら、燃料価格の高騰がそのまま跳ね返ってくる構造は変わりません。
ホルムズ海峡が閉まると、東京だけ電気代が上がる
この構造の非対称性が最もわかりやすく表れるのが、国際的な燃料リスクです。
日本の原油輸入の約9割がホルムズ海峡を通過します(出典: 資源エネルギー庁)。LNGも中東からの輸入比率が高い。海峡の緊張が高まれば、化石燃料の価格に直結する。
火力依存度の高い東京電力・東北電力・北海道電力エリアは、この影響をダイレクトに受けます。燃料費調整額が上がり、電気代が上がる。
関西電力や九州電力も無関係ではありません。でも電源構成の中で原発が大きな割合を占めている分、衝撃の吸収力が違う。原発の燃料であるウランは備蓄がきき、調達先も分散しています。
同じ国に住んでいるのに、中東情勢のリスクが電気代に反映される度合いが、住むエリアによって違う。この非対称性は、電力自由化では解消されていません。
柏崎刈羽が動けば差は縮まるのか
東京電力エリアの消費者にとって、柏崎刈羽原発の再稼働は期待の一つです。1基あたり年間約1,000億円の収益改善効果があるとされています。
ただ、単純に「再稼働=値下げ」とはいきません。
東京電力には福島第一原発の廃炉・賠償という巨額の負担があります。コスト削減分がそのまま値下げに回る保証はない。さらに、7号機はテロ対策施設(特定重大事故等対処施設)の完成が2031年頃の見通しで、当面は動かせません(出典: 原子力産業新聞)。
使える原発は、しばらく6号機の1基だけ。関西の7基との差は簡単には縮まりません。
SMR(小型モジュール炉)のような次世代原子炉が選択肢に入ってくるのは2030年代以降。構造的な格差は、少なくともこの先5〜10年は続く見通しです。
電源構成は変えられない。でも打ち手はある
「住んでいる場所で決まるなら、どうしようもない」——ここで終わるのは早いです。
電源構成を個人の力で変えることはできません。でも、同じエリア内でできることはあります。
電力会社の切り替え。東京電力エリアでも、ガス会社系の電力やセット割を活用すれば、月1,000〜2,000円の節約ができるケースは珍しくありません。地域格差を完全に埋めることはできなくても、差を縮めることはできる。
電源構成を見る習慣。各電力会社は電源構成を公開しています。自分が契約している会社が何で発電しているかを知っているだけで、値上げニュースの背景が読めるようになる。「ああ、LNG価格が上がったから火力比率が高いうちのエリアは直撃だな」と。
5万円の差が映しているもの
月4,000円、年間5万円の差は、「地域差」で片付けるには大きすぎる数字です。
これはエネルギー政策の結果が、そのまま家計に跳ね返っている証拠です。原発を動かせたエリアと動かせなかったエリア。その判断の差が、毎月の請求書に数千円の差として表れている。
消費者がこの構造を選んだわけではない。でも、構造を知っていれば、その中でできることが見えてくる。
次の電気代の請求書が届いたとき、金額だけでなく内訳を見てください。燃料費調整額がいくらか。基本料金がいくらか。その数字の裏に、この国のエネルギー政策の現在地が映っています。
この記事は2026年3月時点の情報に基づいています。電気料金は燃料価格や制度変更で変動するため、最新情報は各電力会社の公式サイトや資源エネルギー庁でご確認ください。