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2026-09-20 ・ 構造・視座系

潮は毎日、少しずつ遅れてやってくる

周期需要曲線ピーク時間帯別プラン

漁港の掲示板に貼られた潮見表を見ると、満潮の時刻が毎日少しずつ後ろにずれていく。

昨日は朝の6時20分、今日は7時10分、明日は8時ごろ。1日で50分ほど遅れる。1週間で6時間近くずれ、2週間で昼と夜が入れ替わる。

これは潮が気まぐれだからではない。潮を動かしているのが太陽ではなく、月だからだ。

時計は太陽に合わせて作られた

私たちの1日は24時間で、これは地球が自転して太陽が同じ位置に戻るまでの時間だ。時計はこの周期に合わせて設計されている。

一方、月は地球のまわりを回っている。地球が1回自転するあいだに月も少し先へ進むので、同じ月の位置に戻るには24時間より少し長くかかる。約24時間50分。潮汐はこの周期に従う。

つまり潮は、私たちの時計とは違う周期で動いている。ずれているのではなく、別の暦を使っている。

漁師はこれを知っているから、時計ではなく潮見表を見る。「毎朝6時に出る」という決め方をせず、その日の潮に合わせて出る時間を変える。

電力の需要にも、複数の周期が重なっている

電力の需要も、一つの周期では動いていない。

まず、社会の周期がある。朝に人が起き、日中に働き、夕方に帰宅して家の電気がつく。これは時計に従う。カレンダーにも従っていて、平日と休日ではまったく形が違う。

次に、太陽の周期がある。日照は太陽の位置で決まり、季節によって長さが変わる。太陽光発電の出力は完全にこちらに従う。

さらに、気温の周期がある。気温は日照に遅れて動く。一日で最も暑いのは、太陽が最も高い正午ではなく、午後2時前後だ。地面と空気が熱を溜め込むぶん、遅れが出る。冷房需要はこの遅れた周期に従う。

これらの周期は、それぞれ別の理屈で動いていて、ぴったりは重ならない。重ならないことが、系統を運用する側にとっての難しさになる。

ずれが生む、夕方の谷間

具体的に現れるのが、夏の夕方だ。

太陽光の出力は、日が傾くにつれて急速に落ちる。一方、気温はまだ高く、冷房は動き続けている。加えて人が帰宅し、照明や調理の電力が乗ってくる。

供給が減る方向に動き、需要が増える方向に動く。この二つが交差する数時間に、系統への負荷が集中する。同じ1kWhでも、この時間帯の1kWhは、深夜の1kWhとは意味が違う。

昼のあいだは、太陽光が大量に出て、需要を上回ることさえある。夕方には足りなくなる。同じ日の中で、余っている時間と足りない時間が両方ある。

「一日の総量」で見ていると、この構造は見えない。総量は足りているのに、ある時刻だけ足りない。潮見表を見ずに「今日は海がある」と言うのと同じで、平均は現場の役に立たない。

周期が重なる日は、年に何度かしかない

潮には、大潮と小潮がある。月と太陽の位置関係によって、干満の差が大きくなる日と小さくなる日が交互に来る。二つの周期が同じ方向に働くとき、潮位の差は最大になる。

電力にも、これに当たる日がある。複数の条件が同じ方向に重なる日だ。

猛暑と、平日と、日照の少ない夕方。あるいは寒波と、朝の需要の立ち上がりと、風の弱い日。それぞれ単独なら余裕があっても、重なると余裕が消える。系統の運用が張り詰めるのは、年間を通じて数えるほどの時間帯であり、その大半はこの重なりで説明できる。

厄介なのは、この数時間のために、設備の規模が決まってしまうことだ。年に数回の重なりに耐えられるだけの発電設備と送電容量を持たなければならない。残りの時間、その設備の多くは余っている。

電気の料金が「一瞬の最大値」で決まるという考え方が業務用の契約に組み込まれているのは、この事情の反映だ。総量ではなく、最も張り詰めた瞬間が設備の規模を決め、設備の規模が費用を決める。

大潮の日に合わせて堤防を作るのと、理屈は同じだ。普段の潮位に合わせて作れば、年に数回の大潮で越えられる。

平均を見ると、ピークが消える

これは測り方の問題でもある。

月の使用量というのは、時間をまたいで足し上げた数字だ。この足し算をした時点で、いつ使ったかという情報は消える。残るのは総量だけになる。

家庭の請求書は、長らくこの総量だけを見てきた。だからどの時間に使っても、料金は同じだった。使う側にとっては単純で分かりやすい。だが系統の側では、時間帯によってコストがまるで違う。

時間帯別のプランや、需要を動かすことに対価を払う仕組みは、この失われた情報を料金に戻す試みだ。総量ではなく、いつ使ったかを見る。

漁師が時計ではなく潮見表を見るように、電気の使い方も、時計とは別の周期に合わせる余地がある。潮見表があらかじめ配られるように、電気の需給が厳しくなる時間帯も、事前におおよそ予測できる。

自分の暮らしの潮見表を作る

この構造を家庭の側に降ろすと、やれることは意外に少ない。だが少ないぶん、はっきりしている。

動かせる家電と、動かせない家電がある。照明や冷蔵庫は動かせない。一方、洗濯機、食洗機、給湯、EVの充電は、動かす余地がある。まとまった電力を使い、かつ「いつやるか」を選べるからだ。

もし時間帯で単価が変わるプランを使っているなら、この動かせる分を安い時間帯に寄せるほど効く。使っていないなら、自分の生活で動かせる電力がどれくらいあるかを一度数えてみると、そういうプランが自分に合うかどうかが分かる。

夜型の生活で、洗濯も充電も夜に寄せられる家なら、時間帯別は効きやすい。日中在宅で、電力の使用が昼に集中する家なら、効きにくいこともある。

自分がどちらの潮に乗っているのか。時計を見ているだけでは、それは分からない。


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