2026-03-11 ・ 電力の基礎知識
一括受電マンションは電力会社を変えられない――仕組み・デメリット・導入前に知るべきこと
「管理組合から一括受電の案内が来たけど、これ何?」
マンションに住んでいると、ある日こんな通知が届くことがある。「高圧一括受電サービスの導入について」。電気代が安くなるらしい。いいことに見える。
でも、安くなる代わりに失うものがある。それを知らないまま導入すると、あとから「こんなはずじゃなかった」となるかもしれない。
そもそも一括受電って何?
普通のマンションでは、各戸がそれぞれ東京電力や関西電力などの電力会社と個別に契約している。これが低圧契約。電力会社が建物近くの変圧器(電柱の上のトランスなど)で高圧電力を100Vや200Vに変換し、各戸に届けている。
一括受電は、この仕組みを変える。
マンション全体で1つの高圧契約を結び、マンションの敷地内に設置した変圧器(キュービクル)で高圧電力を低圧に変換してから各戸に分配する。いわば「マンション単位で電気のまとめ買い」をする仕組み。
高圧電力は低圧電力より単価が安い。だからまとめ買いした分だけ、電気代が下がる。
一般的な割引幅は:
- 共用部(エレベーター・廊下の照明など): 10〜40%程度の削減
- 専有部(各戸の電気代): 5%程度の削減
共用部の削減幅が大きいので、管理費の節約として提案されることが多い。
「電気代が安くなる」だけで判断してはいけない理由
安くなるのは事実。でも、それと引き換えにいくつかの自由を失う。
1. 電力会社を選べなくなる
これが最大のデメリット。
2016年の電力自由化以降、一般家庭でも電力会社を自由に選べるようになった。ガスとのセット割、ポイント還元、再エネ100%プランなど、各社がさまざまなプランを出している。
でも一括受電マンションでは、各戸が個別に電力会社を変更することができない。マンション全体で1つの契約だから、自分だけ別の電力会社に乗り換えるという選択肢がそもそも存在しない。
電力自由化の恩恵を受けられない、ほぼ唯一のケースが一括受電マンション。電力自由化の仕組みについては、電力自由化とは?――仕組み・メリット・注意点をわかりやすく解説で詳しくまとめている。
2. 契約期間が10〜15年と長い
一括受電の契約期間は10年から15年が一般的。変圧器などの設備投資を一括受電業者が負担する代わりに、長期契約で回収する仕組みになっている。
契約時点では安くても、10年後も安いとは限らない。電力市場は変化が激しく、新電力の参入やプランの多様化が進んでいる。長期契約の途中で「もっと安いプランがあるのに変えられない」という状況は十分ありえる。
途中解約には高額な違約金が発生する場合もある。
3. 年に1回、停電が発生する
一括受電では、マンション内に設置した高圧受電設備(キュービクル)の法定点検が年1回義務付けられている。この点検中は建物全体が停電になる。
停電時間は1〜2時間程度だが、エレベーター、給水ポンプ、オートロック、インターネット設備などすべてが止まる。日曜の早朝に実施されることが多いが、それでも生活への影響はゼロではない。
低圧契約なら、電力会社が管理する設備の点検は各戸に影響しない形で行われるので、この停電は発生しない。
導入のハードルが高い理由――全戸同意問題
一括受電を導入するには、全戸が現在の電力会社との個別契約を解約する必要がある。1戸でも解約しなければ、工事が進められない。
つまり、100戸のマンションなら100戸全員の同意が必要。
マンションみらい価値研究所の調査によると、一括受電の導入が頓挫したケースが65件報告されており、見送り率は約16%にのぼる。総会で否決や審議保留になる確率は決して低くない。
反対する理由としては:
- すでに新電力やセット割を使っていて、一括受電に変えるとかえって高くなる
- 長期契約に縛られたくない
- 電力会社を選ぶ自由を手放したくない
気持ちはわかる。自分がすでにお得なプランで契約しているのに、「マンション全体で一括受電にするから解約してくれ」と言われたら、そりゃ嫌だ。
最高裁が「解約は強制できない」と判断した
この全戸同意の問題は、実際に裁判にまで発展している。
2019年3月5日、最高裁が重要な判決を出した。
ある団地の管理組合が、高圧一括受電方式を導入するために、全住民に電力会社との個別契約の解約を義務づける規約を設定した。しかし一部の住民が解約に応じなかった。
最高裁の判断は明快だった。個別の電力契約の解約は「専有部分の使用に関する事項」であり、管理組合の決議で義務づけることはできない。つまり、管理組合が多数決で「全員解約しろ」と決めても、法的な強制力はない。
この判決以降、一括受電の導入は「1人でも反対すれば止まる」ことが法的にも確認された形になった。
すでに一括受電マンションに住んでいる場合
「もう一括受電なんだけど、どうすればいい?」
正直、できることは限られる。契約期間中は電力会社の変更はできない。
ただし確認すべきことはある。
- 契約期間の残りを把握する: 管理組合に確認すれば、契約満了時期がわかる。満了時に更新しない選択も可能
- 専有部の電気代が適正か確認する: 一括受電業者からの請求が、電力会社の標準プランと比べてどうなのかを比較してみる。電気料金の仕組みを理解しておくと、比較がしやすい
- 満了時に管理組合で議論する: 契約更新のタイミングは電力会社を選び直す唯一のチャンス。10年前と今では電力市場の状況がまったく違うので、更新前に比較検討する価値はある
マンション購入前に確認すべきこと
これからマンションを買う人、借りる人にとって、一括受電かどうかは意外と盲点になる。
確認方法
- 敷地内にキュービクル(高圧受電設備)があるか: 「高圧受電盤」と書かれた箱型の設備。駐車場の隅や建物の裏手にあることが多い
- 管理規約に一括受電の記載があるか: 重要事項説明書にも記載されるはず
- 不動産会社に直接聞く: 「電力の契約形態は個別契約ですか、一括受電ですか」と聞けばわかる
新築マンションでは分譲時から一括受電が導入されているケースも増えている。マンションみらい価値研究所の調査では、分譲当初から導入されている管理組合は全体の約28%にのぼる。新築なら最初から選択肢がないまま入居することになる。
一括受電マンションが向いている人
- 電力会社にこだわりがなく、少しでも安くなればいいと考える人
- 電力会社の比較やプラン変更が面倒な人
- 管理費の削減を最優先にしたい管理組合
一括受電マンションが向いていない人
- 自分で電力会社を選びたい人
- すでにお得な電力プランを使っている人
- 将来EVの充電設備を入れたいと考えている人(業者の承認が別途必要になる場合がある)
EVの充電設備と一括受電の関係については、マンション住まいでEVを買ったら「充電難民」になった話でも触れている。
まとめ
一括受電は「電気代が安くなる」という明確なメリットがある。特に共用部の電気代削減は管理費の節約に直結するので、管理組合にとっては魅力的な提案に見える。
ただし、安くなる代わりに失うものがある。
- 電力会社を選ぶ自由がなくなる
- 10〜15年の長期契約に縛られる
- 年1回の計画停電が発生する
- 導入には全戸の同意が必要で、最高裁は「解約の強制はできない」と判断している
「安くなるからいいでしょ」で終わらせず、自分の生活にどう影響するかを具体的に考えた上で判断してほしい。特に一括受電マンションの購入を検討しているなら、入居後に電力会社を変えられないことを理解した上で決めるべき。
管理組合で導入が提案されたら、賛成の前に契約期間・解約条件・専有部の割引率・停電の頻度と時間を確認する。それだけで判断の精度が変わる。