2026-03-21 ・ 電力の基礎知識
電力自由化10年で119社が消えた——生き残った新電力の共通点
2016年に始まった電力自由化から10年。新電力は約750社まで膨れ上がり、そのうち119社以上が撤退・倒産した。4社に1社以上が市場から消えた計算になる。
「新電力に乗り換えたけど、うちの会社は大丈夫?」——そう感じたことがあるなら、この記事の内容はそのまま使える。消えた会社と生き残った会社の差を、データから見ていく。
119社はなぜ消えたのか
2022年、新電力が一気に崩れた
電力自由化の最初の6年間(2016〜2021年)は、比較的穏やかだった。参入が相次ぎ、登録事業者数は約750社に達した。新電力同士が価格競争を繰り広げ、消費者にとっては「乗り換えれば安くなる」時代。
状況が一変したのは2022年。ロシアのウクライナ侵攻で天然ガスの価格が急騰し、卸電力市場(JEPX)の取引価格が跳ね上がった。
ここで一斉に倒れたのが、自社で発電設備を持たない新電力だった。
「仕入れ100%依存」の構造的な弱さ
消えた新電力の多くに共通するのは、卸電力市場からの仕入れに100%依存していたこと。
仕組みはシンプルだ。JEPXから安く電気を仕入れて、消費者に少し上乗せして売る。市場が安定している間は利益が出る。でも仕入れ値が跳ね上がれば、売れば売るほど赤字になる。
八百屋に例えるとわかりやすい。自分の畑を持たず、毎朝市場で野菜を仕入れて売る八百屋。仕入れ値が安い日は儲かるけれど、不作で市場価格が3倍になったら? 売値を3倍にすれば客は離れる。据え置けば大赤字。どちらにしても詰む。
2022年に起きたのは、まさにこれだった。
帝国データバンクの調査によると、2021年4月時点で登録のあった新電力706社のうち、2023年3月までに195社が契約停止・撤退・倒産に追い込まれた。わずか2年で約28%。内訳は契約停止112社、撤退57社、倒産・廃業26社。さらに2024年3月時点では、撤退・倒産・廃業の累計が119社に達している(帝国データバンク「新電力会社」事業撤退動向調査 2024年3月)。
生き残った新電力の3つの共通点
では、同じ危機を経験しても生き残った会社には何があったのか。
1. 自社発電設備を持っている
最大の分岐は「自前の電源があるかどうか」だった。
ガス会社系の新電力は、天然ガス火力発電所を自社グループで保有している。石油会社系も同様に自社発電設備を持つ。市場価格が高騰しても、自社で発電した電気を使えるから、仕入れコストの急騰を丸ごとかぶらずに済む。
自前の畑を持つ八百屋は、市場が荒れても自分の畑から収穫できる。この差が、2022年の危機で生死を分けた。
2. 親会社・グループの経営基盤が厚い
大手ガス会社やエネルギー企業を親会社に持つ新電力は、一時的に赤字が出ても事業を継続できた。体力がある。
逆に、ベンチャーや異業種から参入した小規模新電力は、数ヶ月の赤字で資金が尽きた。電力事業は薄利多売のビジネスだから、手元資金が少ないと市場の変動に耐えられない。
3. 電源調達を分散していた
消えた新電力の多くは、電力の調達先がJEPX(卸電力取引市場)の一本足だった。市場が安いうちは利ざやが出るが、価格が跳ね上がれば仕入れコストがそのまま直撃する。
生き残った新電力は、調達手段を分散していた。自社発電、発電事業者との長期相対契約、市場取引の組み合わせで、どれか一つが崩れても他でカバーできる構造を持っていた。自社発電があれば市場に左右されないし、相対契約なら価格が事前に決まっているから急騰の影響を受けにくい。
結局のところ、1と2と3は繋がっている。自前の電源を持ち、資金力があり、調達先が分散されている——つまり「電力事業を本業としてやっている会社」が残った。安さだけを武器に参入した会社から順に退場していった。
それでも乗り換え率は24%——4人に1人が新電力を使っている
119社が消えた一方で、新電力全体のシェアは伸び続けている。
低圧(一般家庭向け)の新電力シェアは約24%。4人に1人が大手電力以外を選んでいる計算だ。東京電力エリアでは約25%と、全国平均より高い。
つまり「新電力=危ない」ではない。危なかったのは、自社電源を持たず市場に100%依存していた一部の新電力だった。淘汰を経て、体力のある事業者が残ったとも言える。
電力自由化そのものの仕組みや制度についてはこちらの記事で詳しく解説している。
2026年、新電力を選ぶときの判断基準
過去10年の淘汰から学べることは明確だ。
自社発電設備の有無を確認する
新電力のWebサイトには、電源構成(どの発電方法で電気を作っているか)が掲載されている。「JEPX」「卸電力取引所」の比率が100%に近い会社は、次の市場高騰で同じリスクを抱える。
ガス会社系・石油会社系・再エネ発電事業者系など、自社グループで発電設備を保有している会社を選ぶのが、10年間の教訓から導かれる最も合理的な基準だ。
一人暮らしで具体的にどの会社がいいか知りたい場合は、一人暮らし向けの電力会社比較で比較している。
料金体系を理解する
市場連動型プランは、電力市場が安定している局面では確かに安い。でも2022年やホルムズ海峡危機のような事態が起きれば、月の電気代が数万円単位で跳ね上がるリスクがある。
リスクを抑えたいなら、固定単価型か燃料費調整額に上限があるプランを選ぶ。電気料金の構造(基本料金・従量料金・燃料費調整額・再エネ賦課金)を把握しておくと、プラン比較がしやすくなる。仕組みの詳細は電気料金の仕組みを参照してほしい。
再エネ賦課金の負担が気になる場合は再エネ賦課金の解説記事にまとめている。
年に1回は契約を見直す
電力会社は一度選んだら終わりではない。料金改定、新プランの登場、生活スタイルの変化——どれも見直しのタイミングになる。
「乗り換えは面倒」と思うかもしれないが、実際はWebで10分、工事不要、立ち会い不要。手続きの手間と年間の節約額を天秤にかけると、特に月300kWh以上使う家庭なら検討する価値はある。電気代を下げる方法は乗り換え以外にも節電の工夫でまとめている。
まとめ——「安さ」の裏にある構造を見る
電力自由化10年で見えたのは、安さの理由がどこにあるかで、リスクが全然違うということだ。
- 自社発電でコストを抑えている → 構造的に安い。市場が荒れても持ちこたえる
- 市場から安く仕入れて薄利で売っている → 市場が安定している間だけ安い。高騰すれば破綻する
119社が消えたのは、後者のビジネスモデルが市場の急変に耐えられなかったからだ。
新電力を選ぶとき、「月額いくら安くなるか」だけでなく、**「なぜ安いのか」**を確認する。自社発電設備を持っているか、電源構成はどうか、燃料費調整の仕組みはどうなっているか。
この3点を押さえておけば、次に市場が荒れたとき「うちの電力会社、大丈夫かな」と不安になる可能性はぐっと下がる。
自分に合った電力会社を見つけるには、複数社の料金プランと電源構成を比較検討するのがおすすめだ。
この記事は2026年3月時点の情報に基づいています。新電力の撤退・倒産数は資源エネルギー庁の公開資料および帝国データバンクの調査を参照しています。