2026-03-31 ・ 電力の基礎知識
「安い電力会社」は、なぜ安いのか
電力会社の比較サイトを開くと、料金が安い順に並んでいます。
1位の会社を選ぶ。月500円安くなるなら年間6,000円の節約。簡単。合理的。――本当にそうでしょうか。
2022年、30社以上の新電力が撤退・倒産しました(出典: 帝国データバンク)。電力自由化から10年で119社が消えた。消えた会社に共通していたのは、「安さ」を最大の武器にしていたことです。
「安い」と「安さが続く」は、全く別の話です。
なぜ安かったのか
新電力のビジネスモデルは大きく2つに分かれます。
自社で発電所を持っている会社。ガス会社系、石油元売り系、再エネ発電事業者など。自前の電源があるので、仕入れコストをある程度コントロールできる。
自社発電を持たず、市場から仕入れて売る会社。日本卸電力取引所(JEPX)でスポット調達し、薄い利幅で顧客に転売する。自社で発電設備を持たないので固定費が軽い。その分、料金を安く設定できる。
2022年に撤退した新電力の多くは後者でした。
市場価格が安いときは成り立つモデルです。JEPXのスポット価格が10円/kWh前後で推移していた2019〜2020年頃、市場調達型の新電力は大手電力より大幅に安い料金を出せた。比較サイトの上位を独占した。
しかし2021年末から2022年にかけて、天然ガスの国際価格が急騰。JEPXのスポット価格が跳ね上がりました。仕入れ値が売値を超える。売れば売るほど赤字。安さを武器にしていた会社ほど、利幅がなかった分、衝撃をまともに受けました。
「安い理由」を知らないリスク
これは電力に限った話ではありません。
値段が安い商品やサービスには、安い理由がある。原材料が安いのか。中間マージンをカットしたのか。品質を落としているのか。そして、その理由が「環境が変わっても持続するか」を考えないまま安さに飛びつくと、環境が変わったときに代償を払う。
新電力の場合、安さの理由が「市場価格が低い時期にたまたま成り立っていただけ」だったケースが少なくなかった。
電気料金の内訳を見ると、燃料費調整額という項目があります。これは市場価格や燃料価格の変動を料金に反映する仕組みですが、新電力によって計算方法が異なります。上限を設けている会社、市場連動型でそのまま転嫁する会社、独自の計算式を使う会社。この違いが、平時は見えません。市場が荒れたときに初めて表面化する。
「安さの理由」と「安さの持続性」。この2つを確認せずに料金の数字だけで選ぶと、2022年の撤退劇に巻き込まれた数十万世帯と同じ経験をする可能性がある。
「安さが壊れにくい」3つのシグナル
安い電力会社を探すのではなく、「安さが壊れにくい電力会社」を探す。視点を変えると、確認すべきポイントが見えてきます。
1. 自社発電設備があるか
最もわかりやすいシグナルです。
自社で発電所を持っている会社は、市場価格が高騰しても仕入れコストが一定の範囲に収まる。ガス会社系であれば自社のガス火力発電所、再エネ事業者であれば太陽光や風力の発電設備。
確認方法はシンプルで、会社のWebサイトに「電源構成」「発電所一覧」のページがあるか。なければ、市場から100%仕入れている可能性が高い。自社発電設備を持つ会社の一覧はこちらでまとめています。
2. 母体の事業規模と体力
電力小売は参入障壁が低い事業です。電力自由化以降、異業種からの参入が相次ぎました。IT企業、不動産会社、通信事業者。
母体が大きければ安全、とは言い切れません。ただ、数年間の市場変動を乗り越えた実績と、電力以外の収益源を持っていることは、経営の安定性を測る材料にはなります。
ガス会社系(東京ガス、大阪ガスなど)や石油元売り系は、エネルギーの調達が本業。市場変動への耐性がそもそも高い構造です。
3. 燃料費調整の仕組み
ここが一番見落とされやすい。
燃料費調整額に上限を設けている会社と、市場連動型(上限なし)の会社があります。上限ありの場合、市場が高騰しても一定以上は消費者に転嫁されない。上限なしの場合、市場価格がそのまま請求書に反映される。
2022年の高騰時、上限なしの市場連動型プランを契約していた世帯では、電気代が前月の2〜3倍になったケースもありました。
約款の「燃料費調整」の項目は、契約前に必ず読んでおく価値があります。
「安い順」の1位は、最適解ではないかもしれない
比較サイトで安い順に並べて1位の会社を選ぶ。効率的に見える。でもその「安さ」がどういう構造で成り立っているのかを知らないまま選ぶのは、天気がいい日だけを見て傘を捨てるようなものです。
晴れが続いている間は正解に見える。雨が降ったとき、初めて問題が表面化する。
一人暮らしの電力会社選びでも触れていますが、使用量やライフスタイルによって最適な会社は変わります。そのうえで、安さの「持続性」という軸を加えると、選び方がもう一段変わる。
確認すべきは3つだけ。自社発電があるか。母体に体力があるか。燃料費調整に上限があるか。
この3つを見るだけで、「安い電力会社」と「安さが壊れにくい電力会社」の違いが見えてきます。料金表の数字の裏にある構造を知っておくこと。それだけで、次に市場が荒れたときの備えになります。
この記事は2026年3月時点の情報に基づいています。電力市場の状況は変化が早いため、最新情報は各電力会社の公式サイトでご確認ください。