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2026-03-28基礎知識

電気を捨てている国の電気代が高い理由

太陽光出力制御電気代EVV2H蓄電池

年間55万世帯分の太陽光電力が、使われないまま捨てられています。

同時に、電気代は上がり続けている。

余っているなら安くしろ。そう思いませんか。でも、そうはなっていない。

この矛盾を理解するには、電気という商品の物理的な性質を知る必要があります。


「電気が余る」とはどういう状態か

2023年度、日本全国で太陽光・風力発電に対して行われた出力制御の総量は約19億kWh(資源エネルギー庁・電力広域的運営推進機関の公表データ)。一般家庭の年間消費量に換算すると、約55万世帯分です。

出力制御とは、電力会社から太陽光発電所に「発電を止めてください」と指示が出ること。

快晴の日。太陽光パネルが全力で発電する。でもオフィスも工場も休みで、電気の需要が少ない。需要を超えた電気は、行き場がない。

スーパーの食品売り場を想像してみてください。大量に仕入れた惣菜が売れ残っている。でも閉店まで値下げしない。そして閉店後に廃棄する。

「安くすれば売れるのに」と思う。でも電気の場合、話はそう単純ではない。


2つの物理的制約

電気には、ほかの商品にはない制約が2つあります。

貯められない。 食品なら冷凍できる。石油ならタンクに入る。でも電気は、発電した瞬間に消費しなければ消える。蓄電池は存在しますが、現時点の日本では太陽光の発電規模に対して系統用蓄電池の容量が圧倒的に足りていない。

遠くに送れない。 九州で余った電気を関東に送ればいい。理屈はそうです。でも地域間の送電線(連系線)の容量が足りない。太陽光パネルは数か月で設置できますが、送電線の増強には10〜15年かかる。国の増強計画の実現は2030年代後半以降の見通しです。

貯められず、送れない。だから捨てるしかない。


ある晴れた休日の1日

この構造を、1日の時間軸で追ってみます。

朝、太陽光パネルが発電を始める。10時には出力が急増し、電力会社は火力発電を絞り始める。正午、太陽光がピークに達する。火力をこれ以上絞ると夕方に再起動できなくなる。揚水発電も容量いっぱい。送電線も空きがない。それでも余る。出力制御が発動し、パネルが止められる。

午後4時、太陽が傾く。太陽光が急減し、火力を急いで立ち上げ直す。午後7時、太陽光ゼロ。火力フル稼働。

昼間は余って捨てている。夕方は足りなくて火力全開。このちぐはぐさが毎日繰り返されています。


「余っている」のに安くならない理由

ここまでくると、構造が見えてきます。

太陽光で昼間の電気が余っても、夕方以降は火力に頼るしかない。火力発電は燃料を燃やすのでコストがかかる。しかも「昼間に止めて夕方に急速に立ち上げる」という毎日の繰り返しは、連続運転より効率が悪く、コストが高い。

電気料金の仕組みで見ると、こうしたコストは燃料費調整額や再エネ賦課金を通じて電気代に反映されています。

昼間の「余り」は安い。でも夕方以降の「不足」が高い。平均すると、安くならない。

電気代が「1日の平均」で決まる以上、昼間だけ余っていても請求は下がらない。


矛盾の正体は「時間のずれ」

電力需要から太陽光発電量を引いた「純需要」のグラフは、昼間にくぼみ、夕方に急上昇します。アヒルの横顔に似ていることから「ダックカーブ」と呼ばれている形です。

火力発電は停止状態からフル稼働まで時間もコストもかかる。毎日、昼に絞って夕方に急速立ち上げ――このサイクルが電力コストを押し上げている。太陽光で昼間が余っても、夕方の火力コストが相殺してしまう。

余っているのに安くならない。この矛盾の正体は「電気を時間軸で移動させる手段が足りない」ことです。


カリフォルニアは突破口を開きつつある

同じダックカーブに悩むカリフォルニア州は、蓄電池で状況を変え始めています。2024年4月、夕方ピーク時の蓄電池放電量が600万kWを超え、その時間帯で最大の電力供給源になりました。州全体で700万kW以上が稼働中。

昼間に余った太陽光を蓄電池に貯めて、夕方に放電する。シンプルですが、それを州全体の規模でやれるかが問題であり、カリフォルニアはそこに到達しつつある。日本でも導入は進んでいますが、規模にはまだ大きな差があります。


EVが「走る蓄電池」になる

蓄電池が足りないなら、増やせばいい。ただ、系統用蓄電池を全国に建設するには時間も金もかかる。

ところが、まったく別のルートで蓄電池が全国に広がる可能性がある。EV(電気自動車)です。

日産リーフのバッテリー容量は40〜60kWh。一般的な家庭用蓄電池が5〜15kWhだから、EV1台で家庭用蓄電池3〜4台分に相当する。しかもこの蓄電池は、持ち主が車を買い替えるだけで勝手に全国に分散配置される。新しいインフラを建設する必要がない。

日本の乗用車は約6,000万台。仮にその10%がEVに置き換わったら、600万台 × 50kWh = 3億kWhの蓄電容量が全国の駐車場に出現する。出力制御で捨てている年間19億kWhを全部は吸収できないが、相当な量を引き受けられる規模です。

V2H(Vehicle to Home)やV2G(Vehicle to Grid)と呼ばれる技術を使えば、昼間にEVに貯めた電気を夕方以降に家庭や電力網に戻せる。つまりEVは「移動手段」であると同時に、「昼間の余った電気を夕方に届ける装置」にもなる。

EVの普及が進むこと自体が、この記事で見てきた「電気を時間軸で移動させる手段が足りない」という構造問題の解決策になる。エネルギー政策ではなく、消費者の車の買い替えが電力網の課題を緩和していく――そういう構造です。

マンション住まいでEVを買ったら「充電難民」になった話でも触れましたが、EVの充電環境はまだ課題が多い。ただ、充電インフラの整備が進めば、EVは「電力の時間シフト装置」として大きな役割を担うことになります。


構造が変わるまでにできること

送電線の増強は2030年代後半。系統用蓄電池の大量導入もまだ先。ただし、EVの普及や家庭用蓄電池の導入で個人の側から変化を起こすことはできます。

昼間に電気を使う。 洗濯機、食洗機、炊飯器。これらを昼間にシフトする。「深夜電力が安い」は長年の常識でしたが、太陽光が余る今、昼間のほうが市場価格が安い時間帯が増えています。

EVを持っているなら、昼間に充電する。 職場や自宅の駐車場で太陽光のピーク時間帯に充電すれば、余った電気の受け皿になれる。V2H機器があれば、夕方以降にEVから家に電気を戻すこともできる。

電力プランを見直す。 オール電化の電気代を考えるなら、昼間の余剰電力でお湯を沸かす「おひさまエコキュート」も選択肢です。日々の節電対策と組み合わせれば、「余っている電気を使う側に回る」ことは電気代にも仕組みにも効きます。

太陽光パネルの導入を検討しているなら、営業が言わない「パワコン交換」の落とし穴や、蓄電池をどの目線で買うかもあわせて読んでみてください。


これは「もったいない」ではなく設計の問題

電力網は「大きな発電所から一方通行で送る」前提で設計されました。太陽光のように「分散して発電し、余ったら貯めて移動させる」想定ではなかった。

蓄電池と送電線が追いつけば、余った電気は「捨てるもの」から「夕方に使えるもの」に変わる。そしてその蓄電池は、巨大な施設だけではなく、自宅の駐車場に停まっているEVの中にも入っている。

構造を変えるのは国とインフラ事業者の仕事。でも、EVに乗り換えること、昼間に充電すること、余った電気を使う側に回ること――構造に適応し、同時に構造を変える側に加わることは、個人にもできます。


この記事の情報は2026年3月時点のものです。出力制御量のデータは2023年度実績(資源エネルギー庁・電力広域的運営推進機関公表値)に基づいています。最新の情報は各電力会社や資源エネルギー庁の公式サイトでご確認ください。

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